ドラマ『アンナチュラル』から学ぶ法医学!第8話
2018年3月2日金曜日夜10時放送のドラマ『アンナチュラル』第8話をネタバレ解説していきます!
Unnatural Death #8 遥かなる我が家
雑居ビルで火災が発生し、UDIに10体もの焼死体が運ばれてくることに。遺体は黒く焼けこげていて、全員が身元不明の状態。ミコト(石原さとみ)、中堂(井浦新)らUDIメンバーは、ヘルプとして来た坂本(飯尾和樹)の手も借りながら次々と解剖を進めていくが、身元判明は困難を極める。
一方で、神倉(松重豊)は将棋の師匠として慕っているごみ屋敷の主人(ミッキー・カーチス)の元を訪ねていた。彼の妻は1年半前に亡くなりUDIで解剖されたが、今も死を受け入れられずにお骨の引き取りを拒否しているのだった…。
解剖の結果、ミコトは9番目の遺体が焼死する前に後頭部を殴られていた可能性があると指摘。腰にはロープで縛られていたような皮下出血も見つかり、単なる火災ではなく殺人を隠すための放火だったのか…?と疑念を抱く。
また火災現場で唯一助かった男がいることも判明。その男が入院していたのは、六郎(窪田正孝)の父・俊哉(伊武雅刀)が勤める病院だった。俊哉はUDIを訪ねてきて、男の病状を伝えるとともに、息子を解雇してほしいと申し出る…!!
さとみちゃんが笑ってる!!!幸せ!!!
焼死
焼死とは生体が火災の中で種々の有害作用により死にいたったものをいう。「焼死体」とは一般的には火災現場等で発見された死体の総称であるが,法医学的には「焼死」した 死体を焼死体と呼ぶべきであり,そうでないもの,すなわち別の死因で死亡した後に焼け た死体は焼損死体などというべきとする立場もある。火災現場から「焼けた死体」が発見された場合,
1. 被害者は火災発生時に生存していたか否か
2. 生存したとして,現場から脱出できなかった/しなかった理由は何か
3. 被害者は誰か(個人識別)
4. 出火原因は何か,特に人的な関与があるか
を捜査上明らかにする必要があり,法医学的には 1 と 3 が特に重要な診断事項である。
焼死の死因
「焼死」とは死因を表す総合的概念であり,さまざまな致死的原因が関与し,時に死因 が競合する。
一酸化炭素中毒
不完全燃焼により発生した一酸化炭素を吸入する。一酸化炭素中毒は焼死を構成する主 要な要因であり,また火災時に呼吸をしていたすなわち生存していたことを示す最も有用 な所見である。血中一酸化炭素ヘモグロビン飽和度が 50% を超えるような場合は,一酸 化炭素中毒を直接死因としてよい。
その他の有毒ガス吸引
シアンや塩素などがいわゆる新建材の燃焼により発生し,これが吸入される。死因への
関与が問題となることは比較的少ない。
熱傷・高熱によるショック
焼身自殺など,身体に直接着火している場合などでは熱傷が死因に少なからず関与して
いると考えられる。
酸素欠乏
燃焼により酸素が消費されることによる酸素欠乏は,家屋火災においては生命維持に与 える影響は小さいと考えられる(酸素が欠乏すればそもそも鎮火する)。一方焼身などの 際に炎に包まれることにより吸気中の酸素が欠乏することは,死に関与すると考えられている。
死体の外部所見
所見として焼損死体一般に認められる外部所見(多くは生活反応ではない)と焼死体の死体所見(生活反応)といえるものがある。
焼損・炭化
皮膚は炭化し,裂け,あるいは焼失する。床などに接している部位では炭化を免れるこ とが多い。顔面では皮膚が焼失し骨が露出(骨顔貌)する。また上・下肢はしばしば遊 離・脱落する。熱傷でいえば 4 度熱傷に相当する。
家屋の火災では胸腹部臓器が完全に焼失することはまれであるが,車両火災では焼損が
極めて高度なことがあり,これらがしばしば焼失する。
拳闘家姿位(pugilistic attitude) 骨格筋の熱凝固により筋は収縮し,屈筋群の筋量が多いため上・下肢の諸関節は屈曲し,時に骨折をともなう。死因とは関係がない。
舌の突出・腸管脱出
各組織は熱により収縮傾向にあるが,一方でガス・水蒸気により膨張し,腹壁が破裂し
時に腸管が脱出する。これも死因とは無関係である。
熱傷
炭化を免れた部分では紅斑・水疱形成といった 1・2 度熱傷(→ p. 67)がみられ,これ らは生活反応であるといわれる。ただし実際には死後にも紅斑は生じ,小さいものであれ ば水疱も生じうることはよく知られている。また死後の焼疱(皮下の水分等が気化し膨張 して生ずる。生活反応ではない)との鑑別も必要である。大きな水疱を除けば,診断的価 値は必ずしも高くないといわざるを得ない。
気道の所見
吸入された煤が口腔,鼻腔内にあり,さらに気管・気管支壁をコートする。火災発生時
に生存していたことを示す重要な所見である。ただし,この所見がなくとも,死後焼却で
あるとはいえない。熱により上気道の粘膜は発赤さらには白濁する。煤は消化管内にも認
められることがある。
鮮紅色流動性血液
一酸化炭素ヘモグロビンの色調であり,臓器も鮮紅色調を呈する。ただし一酸化炭素ヘ
モグロビン飽和度の定量は必須である。
燃焼血腫(epidural thermal hematoma) 硬膜が熱により収縮し,骨との間に生じた空間に血液が貯留し,熱せられて生ずる。生活反応ではない。レンガ色で脆く,蜂窩状を呈することもある。外傷性硬膜外血腫との鑑別が重要であるが,必ずしも困難ではない。
焼損死体の個人識別
焼損のため指紋が採取できない場合,もっとも有力な個人識別の方法は歯の所見の比較 によるものである。これは歯が硬組織の中でももっとも熱に強いからである。場合によっ ては歯を含めた頭蓋骨の X 線写真の比較により個人識別がなされる。対照資料がある場 合は DNA 型検査が有用である。
熱傷死(Burn and scalding)
熱傷(thermal injuries)とは高温・高熱の作用による傷害の総称である。火傷 (burn) は火炎,高温の個体等が熱源であり,湯傷 (scald) は液体・水蒸気が熱源である。熱湯に よる湯傷は事故によるものが多いが,子ども虐待(→ p. 77)を疑うべきサインでもある。
熱傷の分類
熱傷はその程度により以下のように分類されている。
1 度: 紅斑性熱傷。皮膚の静脈の拡張・充血が見られる。いわゆる日焼けもこれに含まれ る。落屑を生じて治癒する。
2 度: 水疱性熱傷。血管透過性亢進により赤色調の紅斑が形成される。浅層熱傷と深層熱 傷とに細分され,前者は顆粒細胞層および角化層の傷害を認め,瘢痕を残さず治癒 する。後者では傷害は表皮から基底膜に達し,時に瘢痕を残す。
3 度: 壊死性熱傷。表皮・真皮の凝固壊死および付属器(汗腺,毛嚢)の傷害を伴う。熱 傷部位は褐色ないし黒褐色を呈し,焼痂(eschar)を形成する。治癒しても瘢痕を残す。
4 度: 傷害が皮下軟部組織におよび,組織が炭化したもの。
熱傷範囲および重症度の評価
熱傷範囲の推算式には Wallace の 9 の法則等がある。詳細は救急医学等の成書を参照されたい。
一般に成人においては 3 度熱傷が体表の 1/3 を占めれば致死的とされている。実際に は,年齢,受傷部位,基礎疾患の有無などが重傷度に影響し,小児では危険が大きい。重 症度の判定基準としてはさまざまなものが提唱されているが,その一つである Schmarts の burn index は次式により算出され,15 以上を重傷としている。
Burn index = 3 度熱傷面積 (%) + 0.5 × 2 度熱傷面積 (%)
病態・死因
受傷後短時間で死亡する場合は 1 次性ショックの可能性が考えられるが,これは比較 的まれである。その後血管透過性亢進により熱傷性(二次性)ショックに陥る。これは hypovolemic shock がその本態である(早期死)。また,高熱の蒸気を吸入した場合は, 気道の熱傷を生じ,成人呼吸急迫症候群を生じたり,あるいは広範な浮腫による肺胞低換 気に陥る。これを脱した後は,感染による敗血症,急性腎不全,消化管出血(Curling’s ulcer)などにより死亡することがある。